こんにちは!枚方の司法書士 尾花健介です。
もちろん枚方だけでなく、寝屋川市、香里園、樟葉、守口市、門真市、四条畷市、東大阪市など、枚方を中心とした関西全域に対応している司法書士として活動しております。
相続の疑問は、必ずしも法律手続きだけにとどまりません。
最初に発生すべき疑問として、よく聞かれるのが、『葬儀代(葬式費用)は誰が支払えばいいのでしょうか?』という質問です。
実は、相続が発生して、一番はじめに悩む問題はこれかもしれません。
結局のところ相続人の誰かが一旦立て替えればいいのか?
仮に相続人の1人が立て替えて支払った場合、その他の相続人に請求することは可能なのか?
それとも、最初から、被相続人の相続財産の中から出せばいいのか?
など、対処の方法が問題となります。
ここでは、葬儀費用の支払いについて、どのようにすればいいのかを解説していきます。
目次【本記事の内容】
- 1.葬式費用と遺産相続の関係
- 2.相続財産から葬儀代を支払いたい場合の対処。
- 3.法改正で銀行からの引き出しが可能に
- 3-1.民法改正前の扱い
- 3-2.改正後は、遺産分割前に預貯金が払い戻せるように
- 4.法改正で銀行からの引き出しが可能に
- 4-1.引出金額の上限
- 4-2.必要書類について
- 5.相続放棄が出来なくなるのでは?
- 5-1.相続財産を葬儀費用に使っても相続放棄は可能
1.葬式費用と遺産相続の関係
被相続人の葬儀代(葬式費用)は、被相続人の死亡後に発生するものです
相続は債務を含めて、被相続人が生前に有していた財産に限ります。※詳しくは⇒
そう考えれば原則的に、葬儀の費用(支払債務)は相続人が相続する債務ではありません。
そのため、葬儀代(葬式費用)は相続財産ではなく、相続の対象とはならないと言えそうです。
しかし、依頼者と民法上の契約が発生しているので、お金を支払わなくてもいいという話ではありません。
それでは、普通は誰が葬儀代(葬式費用)を支払うのものなんでしょうか?
これについては、法律上は定まっておらず曖昧なものとなっております。
一般的な慣例としては、葬儀代(葬式費用)は実質的な葬儀主催者(喪主)が支払うべきものと考えられています。
日本の一般的な慣習では長男が喪主となり、葬儀費用を負担するケースが一番多いです。
または、長男ではなかったとしても、ご実家の家業を継いだ相続人の方が負担することも多いでしょう。
この葬儀主催者(喪主)が相続人であればその相続人が支払うべきでしょうし、相続人ではないものが葬儀主催者(喪主)となった場合にはそのものが支払うべきものということです。
あくまでも、葬儀を行いたい者が葬儀会社と契約して葬儀費用の債務が発生しているに過ぎないからです。
2.相続財産から葬儀代を支払いたい場合の対処。
前述のとおり、葬儀代(葬式費用)は相続債務ではないことは説明しましたが、そうは言っても実情として、『葬式代は相続財産から支払いたい。』といった声も理解できます。
葬式費用は、数十万円から数百万円といった大きな金額になることも多いからです。
この多額の費用を、『一時立替えて支払うよ。』という相続人の方がいらしゃれば、非常に助かるとは思うのですが、実際にはそう多くはないのが現実でしょう。
しかし、単純に引き出しに銀行の窓口へ行こうものなら即座に被相続人名義の銀行口座は凍結されてしまい、引き出すことができなくなっていることも、問題として挙げられます。
原則的に、銀行口座の名義人が死亡すると、口座は凍結され、口座からの預金の引き出し、公共料金の支払いなどの引き落とし、現金の預け入れなど、資金の移動は一切できなくなるからです。
このように銀行口座を凍結する理由は、相続のトラブルを防止するためなのですが…、
逆に、全く凍結されず、自由に預金を引き出すことができるとすると、遺産分割協議をされる際に、出金額の使い道について親族同士で揉める恐れも考えれます。
相続人としては、どうすればいいのでしょうか?
3.法改正で銀行からの引き出しが可能に
上記のとおり、銀行口座が凍結されると預金が引き出せなくなります。
しかし、実はこの点の問題から、民法の相続編が改正され、2019年7月1日から施行されたことにより、死亡後に預金を銀行から引き出すことが可能になっています。
この法律の改正によって、葬儀費用を捻出する方法の選択肢が増えることになったと言えるでしょう。
この項では、相続法がどのように改正されたかを詳しく解説していきたいと思います。
3-1.民法改正前の扱い
上記のとおり、法改正が行われる前は、口座が凍結されるので、遺産分割協議が終了するまでは口座のお金は、基本的にお金を引き出すことはできませんでした。
どうしても凍結された口座からお金を引き出したい場合には、死亡診断書や名義人の戸籍謄本、相続人全員の同意による署名、実印、印鑑証明書、遺言書などが必要でした。
銀行によって書類は多少異なりますが、遺言書や、相続人の同意書類などをはじめ、すぐに集めるのは難しい書類もあったので、葬儀費用の支払いまでに手続きを終わらせることは困難でした。
3-2.改正後は、遺産分割前に預貯金が払い戻せるように
法改正により、遺産分割協議が終了する前でも、相続人の判断で故人の銀行口座からお金が引き出せるようになりました。(※相続人が複数いる場合でも、その内の一人から申し出ることも可能です。)
そのため、預金を払い戻すのに、相続人全員の同意を取る必要までの手間はなくなり、短期間でお金を引き出して、葬式費用に充てることが可能となりました。
ただし、全ての預金を引き出せるわけではありません。
手続きに必要な書類もあるので、注意も必要です。
仮払い制度の創設(改正民法第909条の2)
(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
第909条の2 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。
引用元:民法909条の2
4.引出金額の上限と必要書類
4-1.引出金額の上限
銀行口座から預金を引き出すときの上限金額は、法定相続分の3分の1までと決まっています。
また、1つの金融機関につき150万円までしか引き出すことはできません。
同じ金融機関に複数の口座があっても金額は変わりませんが、A銀行で150万円、B銀行で50万円というように複数の金融機関から引き出すことは可能です。
150万円引き出すことができれば、葬儀費用の大部分はまかなえるはずですので、葬儀費用の支払いに困った際はこの制度を利用するのが良いでしょう。
-ポイント-
①法定相続分の3分の1まで
②1つの金融機関につき150万円
4-2.必要書類について
手続きに必要な書類も何点かあります。
基本的には、本人確認書類、名義人の戸籍謄本または全部事項証明書、相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書、預金の払い戻しを受ける人の印鑑証明書が必要です。(※詳しくは法定相続照明情報についての記事もご覧下さい⇒『法定相続情報照明制度』相続手続きが楽になる制度について。)
必要書類は銀行によって異なる場合があるので、払い戻しを受ける銀行に確認をするのもよいでしょう。
5.相続放棄が出来なくなるのでは?
詳しくは相続放棄に関する記事でまとめていきたいのですが、非相続人の財産を使ってしまうと、単純承認の扱いになってしまい、故人の相続財産に借金が多かった場合などに、相続放棄できなくなる恐れが出てきます。
この点、被相続人の預金を使った、葬式費用の支払いは、相続放棄における単純承認に該当するのかが問題になってきます。
5-1.相続財産を葬儀費用に使っても相続放棄は可能
結論からお話すると、相続財産である預貯金を葬儀費用に使ってしまっても、相続放棄は出来ます。
この点、実際にも、葬儀費用を支払うことが単純承認になるのかという争点について、『常識的な金額であれば単純承認にはあたらない。』という判決が出た例があります。
その理由としても、“葬儀は故人にとって最低限必要な社会的儀式であり、葬儀をするのに必要なお金がない場合に故人の財産を使わないことは、むしろ非常識である”とされたからです。
そのため、葬儀費用の支払いは財産を処分したことにはならず、相続放棄ができる可能性が高いです。
ただし、ここであくまでも“可能性”と書いたのは、相続放棄ができるのは、葬儀費用が妥当な額である場合のみという条件があるからです。
もしも、これが一般のものと比較して高額すぎる葬式費用であった場合には、単純承認とされてしまう可能性がありますので、十分に注意してください。(墓地や仏壇の購入なども、厳密には葬儀の実施にとは関係がないので注意が必用です。また、葬式の後日に行われる四十九日の法要なども、ここで言う葬式には入りませんので、ご注意が必用です。)
因みに、相続放棄もそうですが、相続発生の段階においては、何処までが処分可能なものか?
寧ろ、やってはいけない事や、捨ててはいけない物の区別が非常に重要になってきます。
法的な判断であれば、司法書士、弁護士へ相談いただく必要がありますし、その他具体的な、家財残置物等の物品処分、遺品整理等については遺品整理業者にご相談いただくことをお勧めします。
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3.まとめ
このように、相続・遺言を解決する当事務所では、様々な状況に合わせて、相続手続きや遺言書作成について、相続手続きサポートさせていただきます。
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なお、相続や遺言のことをもっと詳しく知りたいという方は、下記の“総まとめページ”の用意もありますので、是非ご参考になさって下さい。