相続が開始したら、亡くなった方の遺産は、相続人が承継することになります。

しかし、相続人が複数いるばあい、遺産分割協議を実施しなくても、法律上の法定相続規定が存在するので、あえて遺産分割をせず、法定相続割合で手続きをを進めるものとして、合意を証する書面も残さないという選択肢は取り得るのでしょうか?

今回の記事では、「相続手続きを法定相続分で済ませる場合も、遺産分割協議書は作るべきか?」をテーマに検討していきたいと思います。

まず、法定相続割合とは?

まず基本知識についてですが、民法では、相続人が相続する割合を定めており、これを法定相続分と言います。

民法第900条(法定相続分)

同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。 ※各号については省略

この法定相続分という、各相続人が財産を承継する割合は、上記の民法900条で定められている為、仮に、法定された相続分のとおり遺産を分け合うのであれば、特段の遺産分割協議を行う必要はありません。

逆に、この法定相続分以外の割合で、遺産を分割する場合として、遺産分割協議を行い、その協議の結果を書面にした「遺産分割協議書」を作成することになります。

法定相続分の分割と遺産分割協議書

遺産分割協議を行い、法定相続分と違う割合で遺産分けを決めた場合は、その後の手続きの為に、遺産分割協議書を作るのは当然ですが、法定相続分の割合で相続財産を分割する場合でも、あえて遺産分割協議書を作ることは多いです。

別段、任意的に作ることは、全く差し支えありません。

分り易い例で表現すると…、

被相続人が所有していた預貯金300万円を、兄弟3人(法定相続分は各3分の1)が3等分する場合には、法定相続分通りですから遺産分割協議書を作る必要はありませんが、任意的に「法定相続分通りに各3分の1ずつ相続するものとする。」といった旨の遺産分割協議書を作成していただいても問題ありません。

遺産分割協議書がなくても預貯金を解約可

ただ、相続した預貯金を解約する場合、各金融機関のHPを見てみると、ほとんどで「遺産分割協議書」が必要書類に含まれています。

こうしてみると、一見、金融機関には遺産分割協議書の提出が必必要と思えてきますが、相続した預貯金の解約自体は、遺産分割協議書が無くても可能です。

その為、法定相続人全員が手続きに協力すれば、問題なく被相続人の預貯金を解約して分け合うことが可能です。

法定相続分で手続きを進める場合でも、遺産分割協議書を作った方がいい理由2点

上記のように、法定された割合で相続財産を分け合うような場合は、必ずしも、遺産分割協議書までを作る必要まではありません。

しかし、法定相続分の割合であっても、遺産分割協議書を作った方がいい場合も存在します。

以下、その理由を2点紹介します。

①相続人全員の合意形成を証するため

法定相続割合で相続する場合、遺産分割協議書が無くても相続手続きを行うことは可能が、その内容を、遺産分割協議書としえ残してしておいた方が良いこともあります。

それは、後日の紛争回避のために、『法定相続分の割合で相続することに相続人全員が納得しているという証拠を残して置く為』です。

遺産分割協議書は、その内容がどういったものであれ、相続人全員が署名を行い、実印にて押印(印鑑証明書付)をするため、その遺産分割協議書は法定相続分で分割したことに相続人全員が納得している証明になります。

遺産分割協議書を作っておけば、相続手続が終わった後に、“言った言わない”のトラブルを回避することができます。

②相続手続きをスムーズに進めるため

ま法定相続分の割合で分ける場合、遺産分割協議書がなくても、相続人全員の強力(解約内容についての合意、共通の書類への署名、実印押印等)が在れば、金融機関(銀行や証券会社)では問題なく、相続手続きを受理してくれることは、上記の通りです。

しかし、そうは言っても、受理側としては、遺産分割協議書があった方が相続する人が明確になり、余計な判断をしなくていい分、手続きをスムーズに進めることが可能になります。

特に、証券会社等が被相続人から相続人へ証券銘柄を移管する際の手続等では、遺産分割協議書がないと、別途の書類に署名捺印を求められることで、結局、書類のやり取りが増えるので、やはり遺産分割協議書があった方が相続手続きはスムーズに進めていくことが多いです。

不動産は共有を避け、遺産分割協議を実施すべき。

そして、相続財産の中に不動産が含まれる場合には、そもそも論として、法定相続分の割合で相続すること自体が、大きなトラブルのもとになることがあります。

不動産を法定相続分の割合で相続するという事は、それはそのまま、相続人全員で一つの財産を共有することになります。

一見、平等に財産を保持しているようにも見えますが、相続した不動産が共有になってしまうと、これからの維持・管理上の問題が発生し、固定資産税等の税金の納付も協力して行わなければいけません。

以下で不動産を法定相続で相続する、共有デメリット4点をまとめておきます。

  • ①売却が難しくなる
  • ②不動産の管理で揉める
  • ③共有名義にすると簡単に変更できない
  • ④共有者の死亡で権利関係が複雑化

①売却が難しくなる

相続人の1人でも売却に反対する者が現れると処分ができません。不動産屋さんに持ち込む時点で、売主側で金額が定まらず、いつまで経っても売買契約が成立しない等が発生します。

また、共有者の1人が認知症等で意思表示できなくなれば売却ができなくなります。

②不動産の管理で揉める

共有状態の不動産を誰が使用するのか、誰が管理するのか、管理費用、公課租税は誰が負担するのかなど、不動産に関することで毎回話し合いをしなければいけなくなります。

③共有名義にすると簡単に変更できない

一度複数名で登記した共有名義から、1人名義に変更するには、再度、登記費用が発生します。また、再分割の内容によっては贈与税が発生するリスクもあり、兎に角、余計な費用がかかります。

④共有者の死亡で権利関係が複雑化

法定相続分の割合で相続した後、相続人が死亡して相続が発生(二次相続)すると、共有関係が更に細分化し、不動産の処分・管理がより困難になります。

POINT!-相続した不動産をすぐに売却する場合以外は、とりあえずの考えで不動産を法定相続分の割合で相続すると、後々のトラブルに繋がります。その為、相続財産に不動産が含まれている場合は、せめて不動産のみでも、法定相続ではなく「遺産分割」を選択し、きちんと不動産を承継する特定の相続人を決めていただくべきだと思います。(参照:相続不動産の名義は誰にするべきか?

法定相続で遺産分割協議書を作るデメリットは在るか?

本記事に於いては、法定相続であっても遺産分割協議書を作った方がいいという内容で進めて参りましたが、一応、遺産分割協議書を作成する場合のデメリットも紹介させていただきます。。

「法定相続分の割合で遺産を分ける。」と希望されるお客様には、その意図として、『また後で、遺産分割協議を行う余地を残すため、権利関係を未確定にしておきたい。』と考えておられる方が多いです。

一見すると非常に不安定な状態とも言えますが、反対に、「まだ権利関係を動かすことができる」とも考えることができます。

実際に、何度も手続きするという費用的なロスを度外視して考えれば、一旦、法定相続でとりあえず分けておいて、後々になって状況が変化したら、遺産分割協議することも可能です。

例えば、既に共同相続人の中に、認知症者の方が居て、不動産の特定承継者を決めるための遺産分割協議が出来ないため、敢えて法定相続で登記しておく、又は、認知症当事者が逝去するまで、遺産分割協議を実施せず待機する等も場合もあるからです。

また、一度、遺産分割協議書を作成して手続きを進めてしまうと、もうその協議内容を覆すことが難しいので、この点でも、敢えて協議書を作成しないまま法定相続で相続財産を分けておくだけに留めておいた方がいい場合も考えられます

まとめ

ここまで解説をしたように、法定相続割合で遺産を相続する場合であっても遺産分割協議書を作るメリットは存在します。

たしかに遺産分割協議書を作って、相続人全員が署名捺印をするのは、非常に手間で面倒ですが、後々のトラブルを防止する観点からも、書面で合意内容を残しておくのは有用な方法だと考えられます。

当事務所でも、預貯金等を、法定相続で分割する場合であっても遺産分割協議書を作成することはあり、もしこれから相続手続きを進めるうえでご不明なこと等があれば、是非当事務所の活用を検討していただければと思います。

なお、相続や遺言のことをもっと詳しく知りたいという方は、下記の“総まとめページ”の用意もありますので、是非ご参考になさって下さい。

枚方市・交野市・寝屋川市の皆さんへ、相続・遺言・遺産分割のまとめ情報

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