こんにちは!枚方の司法書士 尾花健介です。
もちろん枚方だけでなく、寝屋川市、香里園、樟葉、守口市、門真市、四条畷市、東大阪市など、枚方を中心とした関西全域に対応している司法書士として活動しております。
さて、令和6年から相続登記義務化が施行されたわけですが、同年、併せて相続登記の義務化に伴い、3年以内に事情があって相続登記ができない場合の対策として、「相続人申告登記」が新設されています。
登記上の所有者が亡くなっているが、相続人間で遺産分割の話し合いがまとまらないなどの事情があり、相続登記を3年以内に申請することができない場合に、「登記上の所有者が亡くなった旨」「自らが相続人である旨」を法務局に対し、申し出る制度です。
今回は、この相続人申告登記について、深堀して解説を進めていきたいと思います。
相続人申告登記とは何か?
冒頭のとおり、登記上の所有者が亡くなっているが、なんらかの事情で、相続登記を3年以内に申請することができない場合に、登記上の所有者が亡くなった事実及び、相続人が誰であるかについて、法務局に対して、報告を申し出る制度になっております。
すぐに登記申請まで出来ない状況というのは、例えば、①相続人が多数存在して、誰が相続人であるかの調査や、連絡とるまでに、長い時間を要する場合、②遺産分割協議がまとまらず、誰が不動産を相続するかを決められない場合などが、考えられます。
最大のメリットは、この申出をすることによって、一応の形としまして、3年以内に相続登記の申請義務を履行したものとみなされ、10万円以下の過料を一時的に免れることができます。
法務局の登記官は、この申し出を得る事で、職権にて、申出人の氏名および住所等を登記します。
通常の登記と異なる点は、持分の記載はされません。
※持分が明記される、法定相続どおりの共有持分による所有権移転登記申請とは、全く違う内容です。
つまり、「報告的」な意味においての、仮の登記と言える制度です。
その為に、この制度で、相続登記義務期間による、過料罰則を免れる事は出来ても、売却等、本来の所有権移転登記による本来的な効果までは、期待することが出来ません。
※所有権移転登記を実施したわけではないので、相続人による売買等の法律行為までは出来ない。
誰が申請できるのか?
相続人が単独で手間なく、ほぼ費用もかけず申請できます。
遺産分割協議が出来ない状況も考えられるため、共同相続人のうちから、単独でかつ自分のタイミングで申請可能です。
また、普通に相続登記をするよりも、提出する書類が相続登記に比べて少なくなっており、押印や電子署名も求められないことから、非常に簡易に申請できる制度となっています。
必要な書類
申請に必要となる主な書類は以下の通りです。
- 申出人の住所を証する情報(住民票等)。
- 申出書
- 申出人が登記記録上の所有者の相続人であることが分かる戸籍の証明書(被相続人と申出人との関係によって必要書類が異なる)
- 委任状(代理人が手続を行う場合のみ必要。複数の相続人が連名で申出書を提出する場合は不要)
費用について言えば、戸籍等を取得するための費用は必要ですが、法務局へ申告する際の登録免許税などの手数料はかかりません。
法定相続分で相続登記をする場合には、不動産評価額に1000分の4を乗じた収入印紙代がかかることと比較しても、非常に負担は軽いです。
ただし、この制度は、相続人のうち1人が相続人申告登記をした場合であっても、その効果は他の相続人まで及びません。
1人ずつ申出をする必要があり、申出をした人ごとに登記簿に記載されていきます。ただし、代表相続人が、他の相続人から委任を受けて相続人申告登記を行うことは可能なので、その場合は、上記の必要書類の様に、当事者が連名で申請するか、相続人それぞれが、司法書士等に委任する必要があります。
法定相続分による共有登記との違い。
従来の制度では、遺産分割協議が出来ない場合においての、とりあえずの登記となれば、便宜、法定相続割合による登記しかありませんでした。
これは、民法で定められている遺産の分け方の目安である「法定相続分」で相続人全員の共有名義の登記をする方法です。
この法定相続登記であれば、他の相続人との話し合いをする必要もなく、相続人のうちの一人から、他の共同相続人の名義を含む共有名義による登記申請が可能です。
理屈としては、法律通りの持分で相続登記をするのですから、誰にも不利益がないため、他の相続人の同意なしに相続人の一人から全員の名義に登記ができます。
しかし、法定相続登記を申請するには亡くなった人の出生から死亡までの戸籍すべてと相続人全員の戸籍などを提出しなければならず、完全に登記がなされ、登記簿にも所有権が公示されるため、登録免許税(収入印紙代)の納付が必要となります。
そのため、法定相続登記を申請すること以外に取り急ぎ相続登記義務を免れる方法がないというのは、国民にとってあまりに負担が大きいということで、簡便にそれぞれの相続人が自分だけの義務を免れることができるようにした制度が相続人申告登記制度が用意されたと言えます。
相続人申告登記のデメリット
最後に、簡単にできる相続人申告登記ですが、下記のようなデメリットもあるので、紹介していきます。
- 売却ができない。
- 遺産分割協議が成立した場合、二度手間になる。
- 登記簿に住所氏名が載る。
それぞれについて確認していきましょう。
4-1. 売却ができない
上記でも、説明しましたが、相続人申告登記をしても、売る事はできません。
被相続人名義の不動産に、誰も住んでいないため、売却してその代金を相続人で分配したいような場合など、想定されることですが、こういった場合は、相続登記を実施するしかありません。
このような場合には、必ず相続人名義に相続登記をし、次の名義人となった相続人が売主として契約しなければなりません。
相続人申告登記は、相続人であることが表示されてはいますが、これは権利関係を示しているわけではないため、申告登記された相続人が売主となって不動産を売却できるわけではないからです。
4-2. 遺産分協議が成立した場合、二度手間に
冒頭の例のように、被相続人が亡くなった後、遺産の分け方の話し合いがまとまらず、しばらく遺産分割できそうもないため、相続人申告登記をするケースが多いと思いますが、その後、遺産分割協議が成立したら、その時点から、再度、登記義務が発生します。
この場合、不動産を取得することになった相続人が、あらためて遺産分割協議が成立した時点から3年以内に、遺産分割協議の内容を登記しなくてはなりません。
つまり、簡単に言えば、『相続人申告登記をしたので、もう相続登記をしなくてもよい!』とはなりません。
この場合も、相続登記の手続き期限は3年以内になります。
まとめ
今回は、相続人申告登記について触れていきました。
今回の記事を参考にしていただいて、ご自身で相続人申告登記に取り掛かろうとおもった方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、相続登記をする義務自体が無くなる訳ではなく、将来的に、不動産を処分するなど、根本的に解決したいと考えている方であれば、一度、司法書士に相続登記や、遺産分割協議などについて、相談いただく方がいいかもしれません。
相続登記の手続き期限は3年以内となっていますが、仮に遺産分割協議が難航して、調停や審判になったとしても、概ね、通常3年もあれば決着することが多いです。
したがって、遺産分割協議がうまく進んでいないからといって、慌てて、相続人申告登記を慌ててする必要まではないでしょう。
ご自身の相続について、相続人申告登記が必要かどうかは、お近くの司法書士に相談なさるのが良いかもしれません。
実際にも、換価分割で最初から、不動産を処分する方針で、計画を進める等、相続の最初から出口までの総合事務として投げしてもらったほうが、無駄のない解決になります。
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