自分の親など、被相続人が亡くなって相続が発生すると、相続人は被相続人の財産である相続財産を全て相続することになります。
この場合、相続財産とは何か?
一般には、預金、株式、不動産、自動車、貴金属のようなプラス財産が考えられますが、“全て”という意味には、借金などのマイナスの財産も、相続財産として含まれます。
では―?
マイナスの財産が、相続財産に含まれるなら、自分の親などの、被相続人が、生前から税金を滞納していた場合なども、マイナス財産として相続することになるのでしょうか?
今回の記事では、相続と、被相続人の滞納税金の関係について詳しく説明を進めていきます。
滞納していた税金も相続財産に含まれる
結論から言って、滞納している税金も相続財産となります。
理由は、相続財産には、被相続人が有する全ての財産が含まれるためです。
つまり相続人は、自分の親である被相続人の、納税義務者としての立場をそのまま承継することになり、滞納税金の全てを支払う義務が生じます。
この点、不動産登記の観点から、補足しますと、もしも被相続人が長期間税金を滞納していた場合であれば、所有不動産に差押えの登記がされていることもあります。
その結果、最悪の場合としては、不動産が競売にかけられてしまい、退去を余儀なくされる化能力もあります。
相続した滞納税金の支払い義務者
それでは?
相続財産に、滞納税金が在った場合、さらに、相続人が複数人いるといった場合であれば、誰が支払わなければならなくなるのでしょう?
この点については、原則として、それぞれの相続人は自分の法定相続分に応じた支払い義務のみ負うことになります。
理由としては、税金の支払い義務は、分割できる性質を持つためです。
例えば、被相続人が600万円の税金を滞納していたとしても、自らの法定相続分が4分の1である相続人の場合であれば、600万円のうち150万円の部分だけ支払い義務を負います。
滞納税金を遺産分割できるか
では、次に重要になってくるのが、相続発生後の、滞納税金の負担者を、相続人間で決定できるものなのか?という観点です。
言い換えれば、滞納税金の負担者を、遺産分割協議で決めてしまえるかどうか?です。
この点、滞納税金の負担者を、遺産分割協議で決める事は可能です。
しかし―、この問題に関しては、もう一歩踏み込んで考える必要があります。
その理由としては、仮に滞納税金の負担者を、遺産分割協議で決めても、それを、租税債権者側(※国や市町村)に対抗することができないからです。
もう少し説明を加えるならば…、
①相続人間が滞納した税金の負担者や負担割合を変更するのは、相続人同士で取り決めするのは自由だが…、
②それを債権者(租税債権者)に対して主張することは、不可能であるということになります。
よって―、
相続人間で、遺産分割協議を実施したとしても、税金を請求する国や市町村側の立場からすれば、相続人間で行った遺産分割協議を無視して、そのまま、法定相続分の割合で各相続人に対して税金の支払いを、求める事が可能です。
滞納税金は相続放棄できるか?
可能です。
むしろ、相続人が被相続人の滞納してきた税金を絶対に支払いたくないという場合は、相続放棄を選択しなければいけません。
相続放棄をすると、その相続放棄をした人は最初から相続人ではなかったものとして扱われ、相続財産(プラスの財産も含む)を全て相続しないからです。
そしてこの場合、被相続人が支払う必要があった税金も、相続人は、相続すること自体が無くなり、結果的に、当該相続人には滞納税金を支払う義務が無くなります。
ただし!! 相続放棄をすると相続財産の全てを相続できなくなり、預貯金や株式等の相続人にとってプラスになる相続財産も放棄することになってしまいますので、相続放棄をする場合には慎重に判断をしてください。
なお、相続放棄の手続きには期限があります。
熟慮期間と呼ばれる3ヶ月の間に、相続放棄をするかしないかの、決断をする必要があるため、相続人は相続開始とともに、判断する為の関係書類(債務等のマイナス財産の集計書類、不動産、預金、プラス財産の集計資料)を急ぎ集める必要があります。
因みに、税金の滞納が発生する被相続人は、消費者金融等からの個人債務も残っている、場合が非常に多いです。
その場合、個人信用機関等への照会を進めて、税金滞納以外の残存債務が無いか?確認いただくことをお勧めします。
相続する滞納税金の典型例
しかし、個人の方であれば、発生する税金自体については、それほど種類が多いワケではありませんので、滞納が生じている可能性がある税金については、種類が限られてきます。業
業務に際して見てきた中で、被相続人の滞納税金になる主な税金は下記の通りです。
よく発見された順に書き出してみます。(※当事務所内に限る。)
滞納税金の種類
- ①住民税…市区町村の納税する税金で、前年の収入を基準に課税される税金です。
- ②健康保険料…厳密には税金ではないですが、広義に税金として支払う必要があるものの中で、よく滞納されていることが多いです。
- ③固定資産税・都市計画税…不動産所有者に課される税金、不動産の価値によってその納税額が変わります。
- ④所得税…市区町村ではなく国に納税する国税の一種。前年の収入を基準に課税されるのは住民税と同様。
以上が、被相続人に滞納されている事が多い税金です。
もしも、滞納税金が、何の滞納よるものかしているものか、分からない場合であれば、市町村や税務署等の、税務課(課税)担当の方に、直接問い合わせを進めたほうがいいかもしれません。
税金滞納の理由による、対応の違い。
さて、最後に重要なのは、仮に親が税金を滞納したまま亡くなったとして、その後、相続人がどう対応に動くかです。
滞納の額が、それほど高額ではないなら、安易に相続放棄はできません。
この点、こと、これまでの相談の中で、何故、親が、税金を滞納していたか、掘り下げて聞いてみた限りでは、概ね、下記の3つのパターンに状況が分かれてくることが分かります。
- ①.お金はあったが、本人が意図的に納税しなかった。
- ②.入院や末期状態であったため、納税ができていなかった
- ③.本当に税金を支払うお金がなかった。
①と②は似ているようで、少し違います。
①は、被相続人が、単に税金を払うこと自体が嫌で(めんどくさい。)滞納をしている感じの方が多かった印象です。
こ預貯金等がない方の場合で、相続が発生した時点で、既に不動産に差し押さえが入ったまま放置になっている事もあります。
とは言え、被相続人の滞納の期間が短く、他にプラス財産を有していることも多いので、その場合であれば、あわてて相続放棄を選ばないようにする必要があります。
②のように、被相続人が体調不良等で支払いをできないまま亡くなってしまった場合などは、滞納している期間も金額も軽微であり、それほど相続に影響を与えないことが多いです。
例えば、死後間近に、認知能力が衰えたご高齢者の方が、支払いを滞らせてしまう場合などだと思われます。
一番気になるのは、やはり、③の税金を支払うお金がないケースが最も多いです。
被相続人に保有現金がなく、不動産を所有していていながら、固定資産税を滞納している状況等が考えられます。
その場合であれば、相続後の不動産を売る事で、滞納税金を返済して、それが利益を上回るのであれば、相続を選択すればいいと思います。
まとめ
上記のとおり、税金の支払義務も、相続財産となるため、相続人に支払い義務が生じます。
一応は、相続放棄をすることで税金の支払い義務も放棄することも可能ですが、あくまでも、相続財産の規模をなるべく正確に把握した後でやる事だと思います。
また、経験上、税金を滞納されているご親族様は、同時に、個人名義での借入れをしている場合も考えられますので、滞納税金だけでなく「他に借金があるかもしれない。」として調査し、相続するか放棄するかを、検討された方がいいと思われます。
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