前回の記事では、養子とは何か?

制度の上で、一般的に世間で知られている“普通養子縁組”という制度と、児童福祉の目的で設けられている制度である“特別養子縁組”という養子縁組に分けられていることを説明しました。

今回は、相続や不動産というテーマから少し離れて、この“特別養子縁組”という制度に焦点を当てて説明をしたいと思います。

近年、大人による児童虐待に関する耳を疑うような事件が多く報道されていますが、必ずしも法はこれらの問題を野放しにしてはおきません。

少しでもこれらの問題規模が小さくなるように、用意されている法律があることを広めたいと思い今回の記事を書きました。

目次【本記事の内容】

1.特別養子縁組とはどういった制度か?

引用:厚生労働省≪普通養子縁組と特別養子縁組のちがい・特別養子縁組の成立件数・参考条文≫

特別養子縁組は、昭和48年に望まない妊娠により生まれた子を養親に実子としてあっせんしたことを自ら告白した菊田医師事件等を契機に、子の福祉を積極的に確保する観点から、戸籍の記載が実親子とほぼ同様の縁組形式を
とるものとして昭和62年に成立した縁組形式。

前回の記事の繰り返しになる説明部分もありますが、“特別養子縁組”とは子どもの福祉のために、養子となる子供の実親(生みの親)との法的な親子関係を解消して、実の子と同じ親子関係を新しく養親と結ぶ制度のことです。

沿革的には、上記の厚生労働省の公開情報のとおり、昭和62年に成立をみた制度で、目的としても保護者のない子どもや実親による養育が困難な子どもに、養子縁組を以って温かい家庭を与えるために使われてきました。

また、普通の養子縁組よりも、強力に、法的な安定性を与えることができるので、長期的にも、子どもの健全な育成を図る仕組みとして成立しています。

そして、この制度は、養親になることを望むご夫婦の請求に対し、次の項で説明する法律上の要件を満たす場合に、家庭裁判所の決定を受けることで成立します。

2.特別養子はどしたら成立するか?改正した部分は?

条文を参考にすると“特別養子縁組”の成立には、下記のような要件を満たす必要があることが読み取れます。

また、これらの要件を揃えた上で、さらに、実父母による子の監護が著しく困難又は不適当であること等の事情があり、さらに、子供の利益のため特に必要があると家庭裁判所に認められる必要があります。

(1)実親の同意(817条の6)
養子となる子の実父母の同意がなければなりません。

しかし、実情としては、そんな同意が得られないケースも多いです。

そのため、実父母がその意思を表示できない場合又は、実父母による虐待、悪意の遺棄その他養子となるお子さんの利益を著しく害する事由がある場合は、実父母の同意が不要となることがあります。

条文としては、但し書きのほうがより重要でしょう。

(2)養親の年齢(817条の4)
養親となるには配偶者のいる方(夫婦)でなければなりません。

子供の安定して福祉を目的とした制度なので、夫婦共同で縁組をすることが求められます。

また、養親側の人間としての成熟性も求められるため、養親となる方は25歳以上でなければなりません。

ただし、養親となる夫婦の一方が25歳以上である場合、もう一方は20歳以上であれば養親となることができます。

(3)養子の年齢(817条の5) ※民法の改正部分
養子になる子供の年齢は、養親となる方が家庭裁判所に審判を請求するときに15歳未満である必要があります。

ただし、子供が15歳に達する前から養親となる方に監護されていた場合には、お子さんが18歳に達する前までは、審判を請求することができます。

※改正前は、こちらの項目である子供の年齢の上限が、原則6まで歳でした、

また、お子さんが6歳に達する前から養親となる方に監護されていた場合でも、お子さんが8歳に達するまでが、年齢の上限でした。

(4)半年間の監護(817条の8)
特別養子縁組の成立には、養親となる方が養子となるお子さんを6ヵ月以上監護していることが必要です。

養親側にも養子側にも、お互いに適正が合うかどうかなど、先に可能な限り、確認できるに越したことはありません。

そのため、養親になる人は、縁組成立の前に養子になる子と一緒に暮らしてもらい、その監護状況を考慮して、家庭裁判所が特別養子縁組の成立を決定する流れになります。

引用:民法817条の2~817条の9

(特別養子縁組の成立)
第817条の2 家庭裁判所は、次条から第817条の7までに定める要件があるときは、養親となる者の請求により、実方の血族との親族関係が終了する縁組(以下この款において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる。

(養親の夫婦共同縁組)
第817条の3 養親となる者は、配偶者のある者でなければならない。
2 夫婦の一方は、他の一方が養親とならないときは、養親となることができない。ただし、夫婦の一方が他の一方の嫡出である子(特別養子縁組以外の縁組による養子を除く。)の養親となる場合は、この限りでない。

(養親となる者の年齢)
第817条の4 25歳に達しない者は、養親となることができない。ただし、養親となる夫婦の一方が二十五歳に達していない場合においても、その者が20歳に達しているときは、この限りでない。

(養子となる者の年齢)
第817条の5 第八百十七条の二に規定する請求の時に十五歳に達している者は、養子となることができない。特別養子縁組が成立するまでに十八歳に達した者についても、同様とする。

2 前項前段の規定は、養子となる者が十五歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合において、十五歳に達するまでに第八百十七条の二に規定する請求がされなかったことについてやむを得ない事由があるときは、適用しない。

3 養子となる者が十五歳に達している場合においては、特別養子縁組の成立には、その者の同意がなければならない。

(父母の同意)
第817条の6 特別養子縁組の成立には、養子となる者の父母の同意がなければならない。ただし、父母がその意思を表示することができない場合又は父母による虐待、悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合は、この限りで
ない。

(子の利益のための特別の必要性)
第817条の7 特別養子縁組は、父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があると認めるときに、これを成立させるものとする。

(監護の状況)
第817条の8 特別養子縁組を成立させるには、養親となる者が養子となる者を6箇月以上の期間監護した状況を考慮しなければならない。
2 前項の期間は、第817条の2に規定する請求の時から起算する。ただし、その請求前の監護の状況が明らかであるときは、この限りでない。

(実方との親族関係の終了)
第817条の9 養子と実方の父母及びその血族との親族関係は、特別養子縁組によって終了する。ただし、第817条の3第2項ただし書に規定する他の一方及びその血族との親族関係については、この限りでない。

2.家事事件手続法と児童福祉法の改正も一緒に施行

上記では、民法の範囲での特別養子縁組成立の流れを説明しました。

しかし、同時に、民法の上で決められた特別養子縁組を、具体的にどうやって家庭裁判所の手続きとして実現していくかという点も重要です。

そのために、より具体的な手続き方法を決めるために、民法だけでなく、“家事事件手続法“と“児童福祉法”という法律も同時に見直されたことが分かっています。

具体的には、下記の改正前の問題に焦点を当てて、より子供の福祉に役立つために改正されたことが挙げられます。

3-1.改正前の問題点と見直し

改正前の問題点

必ず養親候補者が審判の申立てをしなければならなかった。

旧法では、実親による同意が撤回可能であったため、その撤回に不安を抱きながら試験養育をしなければならなかった。(制度の安定性が乏しい。)

養親候補者が、実親と対立して,実親による養育状況等が不適当であることを主張・立証しなければならなかった。

これらの事実から、特別養子縁組の成立の為に、旧法ではあまりにも養親候補の側の負担が大きかったことが分かります。

これらの状況を緩和することによって、制度を利用しやすいものとするのが改正の狙いだったようです。

■見直しされたポイント

上記は改正された家事事件手続法と児童福祉法なのですが、条文が長く分かりにくいので、ポイントだけ抽出してみました。

①手続の一部については、児童相談所長が申立てをするこ
とができるようになった。(第164条 2項)

②一定の場合には、実親がした特別養子縁組についての同
意は撤回することができなくなった。(第164条の2 5項)

③実親による子育てが著しく困難又は不適当であることを明
らかにする資料は児童相談所長も提出することができるようになった。(児童福祉法 第33条の6の2 と 第33条の6の3)

これらの改正は,令和1年6月に改正を見て、既に、令和2年4月1日から施行されます。

特別養子制度の利用を促進されるために、前項で説明したように、特別養子縁組における養子となる者の年齢の上限を原則6歳未満から原則15歳未満に引き上げるとともに、特別養子縁組の手続について、養親となる者の負担を軽減するなどの改正が加えられています。

引用:改正後の家事事件手続法 児童福祉法

家事事件手続法 第164条 
 養子となるべき者は、特別養子適格の確認(養子となるべき者について民法第八百十七条の六に定める要件があること及び同法第八百十七条の七に規定する父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合に該当することについての確認をいう。以下この条及び次条において同じ。)の審判(申立人の同条第一項の規定による申立てによりされたものに限る。)を受けた者又は児童相談所長の申立てによる特別養子適格の確認の審判(特別養子縁組の成立の申立ての日の六箇月前の日
以後に確定したものに限る。)を受けた者でなければならない。 

第164条の2    
 民法第八百十七条の六本文の同意は、次の各号のいずれにも該当する場合には、撤回することができない。ただし、その同意をした日から二週間を経過する日までは、この限りでない。
 養子となるべき者の出生の日から二箇月を経過した後にされたものであること。
 次のいずれかに該当するものであること。
 家庭裁判所調査官による事実の調査を経た上で家庭裁判所に書面を提出してされたものであること。
 審問の期日においてされたものであること。 

児童福祉法 第33条の6の2 
児童相談所長は、児童について、家庭裁判所に対し、養親としての適格性を有する者との間における特別養子縁組について、家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)第百六十四条第二項に規定する特別養子適格の確認を請求することができる。

 児童相談所長は、前項の規定による請求に係る児童について、特別養子縁組によつて養親となることを希望する者が現に存しないときは、養子縁組里親その他の適当な者に対し、当該児童に係る民法第八百十七条の二第一項に規定する請求を行うことを勧奨するよう努めるものとする。

第33条の6の3 
児童相談所長は、児童に係る特別養子適格の確認の審判事件(家事事件手続法第三条の五に規定する特別養子適格の確認の審判事件をいう。)の手続に参加することができる。

 前項の規定により手続に参加する児童相談所長は、家事事件手続法第四十二条第七項に規定する利害関係参加人とみなす。         

  

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